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2004年07月17日

小説すばる 2004年8月号 『電車男』を読む

童貞おたく青年がある日突然恋愛の荒波に。
「電車男」はネットが生んだ今世紀最高の恋愛文学だ!

小説どころか書籍でさえないものを「この一冊」で扱うのもどうかと思うが、今世紀最高の恋愛文学(私見)である以上、避けては通れない。「電車男」は、ネットが生み出した前代未聞の感動的ラブストーリーである。

主役は、彼女いない歴22年の、気弱でもてない童貞おたく青年。今年3月の日曜、秋葉原へ買物に出た彼は、帰りの電車で、酔っ払いの老人が女性客数人にからんでいる現場に遭遇し、勇を鼓して「やめろ」と叫ぶ。男性客の協力を得て老人を取り押さえ、被害者・目撃者数人とともに交番へ連行。このとき一緒だったうら若き女性(やや年上)から、翌々日、お礼の品と手紙が宅急便で届く。対応に困った彼(=電車男)は、いつものようにネット上の掲示板(もてない男たちが集う、2ちゃんねるの「独身男板」)へ行って事情を説明し、住人(常連)たちに助言を求める。

電:お礼の品はティーカップでした。
「伝票に電話番号あるだろ。すぐ電話しろ」
電:さっきから携帯握ってるけど……ダメだ。どうしても勇気が……。
「お前は今人生の分岐路にいるぞ!」
「カップ2個は誘ってるとしか思えないが」
電:『これで一緒に飲みませんか?』とか言うの? 無理じゃー!
「カップってどこのブランド?」
電:HERMESって書いてあるけど……。
「ええええるめすキター」

と、にわかに盛り上がる住人たち。かくてマドンナの通称は“エルメス”と決定。匿名掲示板に集う名無したちは、あるときは懇切に指導し、あるときは厳しく叱咤し、あるときは怨嗟と羨望のうめき声をあげつつ、電車男とエルメスの恋を約2カ月にわたって見守ることになる。一万八千件にも及ぶその膨大なログを有志(「中の人」)が編集し、一個の「作品」にまとめあげたのが、この「男達が後ろから撃たれるスレ 衛生兵を呼べ」。

このまとめサイトの登場によって「電車男」の物語はネット上の人々を感動の渦に叩き込み、爆発的な反響を巻き起こした。

もし小説なら、ヒロイン像が類型的でドリーム入りすぎとか、結末が予定調和だとか、無数の欠点を指摘できるが、あくまでもこれは実話。エルメスが電車男の脳内彼女(架空の存在)だという可能性は排除できないが、そんなことは問題ではない。まとめサイトのリードにあるとおり、「これは、ある日突然恋愛の荒波に放り込まれた、勇敢な男達の生き残りをかけた戦いの記録である」。

ふたりがデートしているはずの夜、電車男の帰宅と報告を待って朝まで雑談を続ける無駄な情熱。おたく文化/2ちゃんねる文化の絶妙なブレンド。こんな傑作が自然発生したとは、まさに現代の奇蹟と呼ぶしかない。

大森 望(おおもり のぞみ)
‘61年生れ。翻訳家。最新の訳書はコニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』(早川書房)。
※大森 望のホームページは、http://www.ltokyo.com/ohmori/ 

http://syousetsu-subaru.shueisha.co.jp/osusume/0408/

2004年07月17日 00:00

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