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2004年07月09日
asahi.com 2004年7月9日 2ちゃんねる発「純愛物語」にハマりまくる人々
「切ない」「泣いた」「ネット新世代の登場だ」……引きも切らない議論の数々
2ちゃんねる――言わずと知れた世界最大規模の電子掲示板だ。罵倒や煽りは日常茶飯事で、プライバシー暴露など裁判沙汰や新聞ダネになることもしばしばと、ダーティーな話題にはこと欠かない。そんな2ちゃんねるが、こともあろうに「純愛物語」の舞台になった。掲示板常連の気弱な青年が、期せずして巡り会った恋の相手。その思いを遂げさせようと、2ちゃんねらーたちの応援が始まったのだ。
発端となる出来事は今年3月14日に起きた。秋葉原から帰りの電車に乗っていた22歳の青年は、酔っぱらいの男が女性にからんでいるのを見て、思わず立ち上がりその手を押さえた。人とけんかした経験はなく、声も震えていたようだ。
どうにか酔っぱらいを警察に引き渡し、お礼を言う女性におどおどしながら連絡先を教えた青年は、ほのかな期待を覚えつつ、2ちゃんねるのなじみのスレッドに顛末を報告した。
その2日後、助けた女性からペアのティーカップがお礼に届いた。空想が現実になって、青年は一気にあわてふためく。
さあどうする? 彼が助けを求めたのはやはり2ちゃんねるだった。今すぐ電話するべきか、手紙を書くべきか、電話と2ちゃんねるを交互に見ながらうろたえる青年。ウブで人の良さ丸出しのその姿に、スレッドの住人(投稿者)たちは寄ってたかって世話を焼き始める。
2ちゃんねらーたちが懸命の声援
「誰もが経験した本物の感情」
ルックスは秋葉系でアニメおたく、年齢と彼女いない歴が一緒という冴えない青年(通称「電車男」)が、2ちゃんねらーたちと二人三脚(?)を組んだ、前代未聞の恋物語はこうして始まった。アドバイスを受けながら、電車男は秋葉ファッションからの脱却やデートの誘い方の練習といったハードルの数々を必死に乗り越えようとし、2ちゃんねらーたちはその様子に喝采したり妬いたりしながら応援する。その微笑ましくもスリリングな展開は、やりとりをまとめたサイト(文末にリンク)に掲載されている。
評判はネットの中を爆発的に広がり、まとめサイトは、読むのに数時間かかる分量にもかかわらず、アクセスが殺到した。
まとめサイト読者の1人で、「冬のソナタ」や『世界の中心で愛をさけぶ』など「純愛もの」ファンの会社経営の女性(25)は「通り過ぎた、置き去りにしてしまった感情を呼び起こしてくれた」と言う。
「『ドキドキして電話かけられない』とか『今度は何を着ていこうか』とか、確かに経験してるんだけど、今は忘れてしまった感情。読んで、恋がしたくなった。『冬ソナ』も『世界の中心で……』も好きだけど、電車男の方が断然いい。なぜかって、リアルだから。時間の経過を追っていて、まったく先が読めない。周りの見ず知らずの人が励ましているのもいい」
『理系のための恋愛論』などの著書のある酒井冬雪さんは、最近の純愛ものブームと関係づけて「純愛に必要なのは『障害』です」と語る。
「電車男くんの場合、圧倒的な恋愛経験の不足と、アキバ男であるオレというのが、それでした。でも、誰にでも大なり小なり何かの『障害』はあるもの。その障害を乗り越える勇気、問題に立ち向かう気持ちが、一人ひとりの『純愛』をうむのだと思います。世の中にこんなにもたくさん、やさしい気持ちを持ち、それを言葉にしてくれる人たちがいる。それが『純愛』がブームになる理由のひとつのような気がします」
「でもね」と、酒井さんは続ける。
「女の子はみんながみんな、『セーラームーン』や『プリキュア』などを見る大人の男を嫌っているわけではないのです。私の知人の女性も結婚相手が新居に持って来た『サクラ大戦』シリーズや何かを見て、『ゲームとかして、いつまでも子どもみたいでしょう』とノロけていました。知らぬが仏とはこのことだと思いましたが……。それにしても、自分の恋愛について一部始終、だれかに相談するって、中、高生のときにすることのような……。電車男くん、ホントに『純』だったんですねえ」
だが一方、「純愛ものなどうんざり」という30代の女性も電車男には熱中してしまった。そんなところが、この現象の特異なところかもしれない。
「30を越すと、恋愛はきれいごとで済まないことが身にしみてくる。だから、世間で言われている純愛話なんか、見ることもなかった。現実はお話のようにうまくはいかないと思っていたから。でも電車男は『お話』ではない気がする。私でもあなたでも、誰もが一度は経験したことのある本物の感情を表しているから、切なくなり、ハマってしまう。ひょっとしたら電車男さんも今後、どろどろした恋愛を経験するかもしれない。それでも出会ってから思いを通じ合わせるまでの気持ちは、たぶん忘れないでしょう」
著名人にも飛び火する話題
掲示板、ブログ、Googleのコラボレーション
著名人にも話題は飛び火した。金融庁顧問も務めた木村剛KFi代表も個人ブログ「週刊!木村剛」で、「感動しました。はまり込んで、アポの時間にもう少しで遅れてしまいそうでした」と言及している。
この話が事実かどうか疑う声も一部にはある。だが作り話でここまで盛り上げたとしたら、むしろその方がすごい才能といえるだろう。いずれにせよ、2ちゃんねる住人たちの反応は創作のしようがないし、また前出の女性たちが言うように、描かれている感情は大変リアルで、その点について否定する声はほとんどない。
知識人層の読者を中心に「ネットに新世代出現」という世代論も飛び出した。一世一代の恋愛相談を、ネットの向こうの顔も名前も知らない相手に持ちかけた事実に、「我々には理解できない新世代だ」という解釈になったようだ。
だが恋愛相談などは匿名だからしやすい面があり、2ちゃんねるは短時間で多くの助言が集まる。それなりの合理性はあるわけだ。むしろこんな大げさな議論が登場すること自体、電車男物語にいかに人々が衝撃を受けているかを示す証拠といえるのかもしれない。
話題がこのように広がった背景には、ここにも出てきたブログ(Weblog)の急激な普及という技術的要因がある。Googleで「電車男」を検索すると、大量のページがヒットするが、そのほとんどがブログだ。
ブログとは、気になるウエブサイトの内容や感想をそのページへのリンクと一緒に書くスタイルの個人サイトのことだ。日記との親和性が高く、コミュニケーションに向くため、従来タイプのホームページよりこちらを選択する人が、有名無名を問わず急増している。
ブログには「トラックバック」という仕組みがある。あるブログに他のブログからリンクを張ると、そのリンク情報を元のブログに自動で記述するのだ。これにより、元のブログの著者は、自分の記事に誰が言及したのか知ることができる。自然と他のブログをチェックするようになり、さらにトラックバックが増える。リンクが多いサイトを検索結果の上位に表示する傾向が強いGoogleで、「電車男」に言及したブログがずらりと並ぶのは、こういう理由だ。
「参加していたのはごく普通の人々」
語り継ぐにはマナーも重要
これほどの大反響を、当事者たちはどう思っているのだろうか。電車男氏本人に取材することはできなかったが、電車男物語にリアルタイムでつきあい、まとめサイトを管理する「中の人」(ハンドル名)さんはメールで次のように答える。
もともとまとめサイトは、オリジナルのスレッドの住人が後から楽しむために作ったという。大量の投稿を収録したのは、スレッドの空気を再現するためだ。
「スレッド参加者や2ちゃんねらー以外の人に反響を呼んでいることに驚いています。2ちゃんねる用語がたくさん書かれた、非常識に長いテキストページをこれほど多くの人が読むとは思ってもみませんでした」という。「もしそれがわかっていたら、遠慮してストーリーをもっと短くしていたでしょう」
サイトを読んで感動した人からは「2ちゃんねるを誤解していた」という声も寄せられる。だが今回の話がそれほど特別なことだとは思わないという。
「2ちゃんねるでは、そう多くはないにしろ、感動するストーリーはあります。いい人だけが集まっていたわけでもない。私を含めてほとんどがごく普通の人です。しつこい電話セールスには怒鳴りつけるかもしれませんし。ただ、困っている人がいてアドバイスを求めていたら、普通の人なら何らかの助言をするのではないでしょうか」
ネット内のブームは現在は落ち着いており、「まとめサイトの来訪者もリピーターが多いようです」とも「中の人」はいう。
だが、4月から6月中旬ごろにかけて、電車男物語に夢中になったあまり、オリジナルの2ちゃんねるの掲示板に人が殺到、場のルールや雰囲気にお構いなしの書き込みが激増して、掲示板が台無しになるという問題が起きていた。このため、まとめサイトの閉鎖も選択肢に挙げられたほどだ。
2ちゃんねる住人だけでなく、まとめサイトの多くの読者に「奇跡」「伝説」と言わしめた電車男物語。インターネットの生んだ希有な物語の一つとしてながく伝えていけるかどうか。それがたとえ2ちゃんねるであったとしても、いや2ちゃんねるだからこそ、読む側のマナーも問われているようだ。
▼まとめサイト「男達が後ろから撃たれるスレ 衛生兵を呼べ」の【電車男 緊急指令 「めしどこか たのむ」】の項
▼「週刊!木村剛」2004年6月8日
(ASAHIパソコン2004年7月15日号News&Viewsから一部記事内容を変更して掲載)
http://www.asahi.com/tech/apc/040709.html
2004年07月09日 00:00
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