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2004年11月28日

朝日新聞 2004年11月28日 つまり…、だから「純愛小説」なんだ

電車男 中野独人著
つまり…、だから「純愛小説」なんだ

この『電車男』は、日本最大のインターネット匿名掲示板として名高い「2ちゃんねる」の「書きこみ」を本にしたものだ。

典型的な「ヲタク」青年の主人公が、電車の中で、暴れる酔っぱらいの手から一人の若い女を救ったところから、この「物語」ははじまる。

お礼のティーカップが届き、青年の心はときめく。しかし、女の子と付き合ったことのない「ヲタク」青年にはどうすればいいのかわからない。誰か、教えて! 青年の、この真摯(しんし)な「書きこみ」に、掲示板の仲間たちは一斉に立ち上がり、アドヴァイスを送り、励ますようになる。「電車男」と呼ばれるようになった青年と、「エルメス」と呼ばれることになった若い女の間に起こる、小さな恋の駆け引き。それを丹念に報告する「電車男」の「書きこみ」に、匿名の仲間たちは、一喜一憂する。まるで、それが我が事であるかのように。

およそ、二カ月。大団円の日がやって来る。「告白」に出かけた「電車男」が帰って来るのを、仲間たちは明け方まで待つ。そして、帰宅した「電車男」は戦果を報告する。

「『私も電車さんの事が好きです。だからこれからもずっと一緒にいてくれますか?』と彼女が言った」

その瞬間、パソコンの画面を見つめていた住人たちから祝電の嵐が舞い込むのだった……。

……ところで、この本を読む前、「実は『電車男』なんて存在しないらしいですよ」と教えてくれた友人がいた。すべては、誰かが、掲示板の住人たちをたきつけるために作りだした「物語」なのだと。この現代では稀(まれ)な「純愛」が、事実なのか、それとも、誰かの創作で、それに初(うぶ)な掲示板の住人たちが踊らされただけなのか、この本を読む限りでは判断できない。

だが、一つだけ確かなことがある。この本は、もっとも重要な部分を切り落とすことによって成立しているのである。

『電車男』は、正確には、3月14日から5月17日にかけての「物語」だ。しかし、この本は、掲示板に掲載された最後の日を素知らぬ顔で削除し、その前日までで完結させている。

なぜなら、ネット上の「電車男」は「大団円」の後になってもなお登場し、「エルメス」との性交寸前の行為を書きこむ。それまで応援していた住人たちは、戸惑いを隠せず、そんなことは止(や)めろと忠告する。だが、暴走しはじめた「電車男」は、それを無視するのである。

なぜだ? 住人たちを騙(だま)し果せたことで、凱歌(がいか)をあげたくなったのか? それとも、いつの間にか、掲示板上で拍手を浴びることが、彼の目的となっていたからか? 不可解なミステリーになるはずの「5月17日」を消し去ることで、この作品は、見事に「純愛」の顔つきをすることに成功している。

[評者]高橋源一郎(作家)

  *

新潮社・364ページ/なかの・ひとり 「『インターネットの掲示板に集う独身の人たち』という意味の架空の名前」(奥付から)

http://book.asahi.com/review/index.php?info=d&no=7125

2004年11月28日 00:00

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