協力者・情報提供者待ってます
« 週刊朝日 2004年12月10日号 「電車男」微笑ましく誠実な恋愛対策ドキュメント |
メイン
| 日経エンタテインメント 2005年1月号 次は映画化!? どこまで広がる2ちゃんねる発「電車男」現象 »
2004年12月01日
編集会議 2005年1月号 「ベストセラーの作り方」
メディアミックスから考える
「ベストセラーの作り方」
<ご出席者>
エキサイト メディア事業部 シニアプロデューサー
野口美樹氏
角川映画 企画製作グループ チーフプロデューサー
有重陽一氏
新潮社 出版部
郡司裕子氏
(50音順)
ベストセラーの生まれ方に変化が起きている。映画化されることで、通常の読者層とは異なる層にも支持を受け、大ヒット、あるいはネットの口コミ効果で、ベストセラーが生み出されるなど、他のメディアとの関係がより強くなっている。今回はベストセラーの作り方をテーマに、出版界、映画界、ネットの世界から3名の方にお集まり頂き、ベストセラーの作り方をテーマに座談会を行なった。
友情・初恋・成長…。
『電車男』 には永遠のテーマが詰まっている
司会 まず皆さんの現在のお仕事についてお話下さい。
有重 私は、以前書店に勤務していたこともあるのですが…、その後、映画業界に転職し、今はプロデューサーをしています。最近では12月25日より公開の 『蹴りたい背中』 で芥川賞を受賞した綿矢りささんの 『インストール』 の映画化を担当しました。
野口 私はポータルサイトである 『エキサイト』 で、本やニュース系のチャンネルを担当しています。本のチャンネルであるエキサイトブックスは、書評サイトとして読んで頂ける内容を目指していて、本好きの方々を中心にご利用頂いています。
郡司 私は新潮社で書籍編集を担当しています。最近では 『電車男』 の書籍化を担当しました。普段は渡辺淳一さんや、なかにし礼さん、吉田修一さんといった方たちを担当し、エンタテインメント系の書籍の編集をしています。
司会 いま大変な話題になっている、40万部を突破した 『電車男』 ですが、郡司さんがこのコンテンツに注目したきっかけは何だったのでしょう。
郡司 実は私、あまりパソコンに詳しくないんです。家にもパソコンがないくらいなので(笑)。 『電車男』 は、編集長に教えてもらいました。ある日、「これ、面白そうだよ」 とURLをおくってもらったんです。
実際に見てみたら、すごく面白くて、すぐに 「絶対に本にしたい!」 と思いました。ですから、『電車男』 は自分が積極的に動いて見つけてきたものでもないし、ベストセラーを生み出すための理論的な戦略や裏付けがあったわけでもないんです。私自身、ここまで売れるとは思ってなかったですから。
野口 でも 『電車男』 には2ちゃんねる特有の用語が出てきますよね。意味が分からないところはなかったんですか。
郡司 最初に説明が書いてありますし、「こういうもんなんだろうな」 と。それよりも、2ちゃんねるに全く興味のない私が読んでも面白いのだから、逆に書籍化したら、多くの人に楽しんでもらえる作品になるのではないかと考えたんです。
野口 『電車男』 を読んだ人たちは、スレッドの雰囲気を忠実に再現したことに驚いたみたいですね。すごく新鮮だったという声をよく聞きます。
有重 私は 『電車男』 は知り合いの演出家に薦められて、読みました。とにかく面白い。アスキーアートもとてもいいですね。
郡司 自分が画面上で読んだときに、アスキーアートがとてもいいなと思ったんです。ですから、この見た感じをそのまま紙の上に再現しようと考えました。印刷会社の方にも、すごく無理を言って…。私は 「見たままに」 と指示を入れただけで、実は何もしていないんです(笑)。
有重 読んでいて、絵に力があるなと感じました。このサイトに参加した人たちが電車男を応援している様子が、一目でパッとわかりますし、皆の気持ちも伝わってきますよね。これだけ、たくさんの人たちが応援していたのかと驚きました。読後感も爽やかで、とても優しい気持ちになれました。
郡司 『電車男』 の内容は、友情や成長、初恋といった、昔から文学のテーマとして描かれてきた要素がすごく多いんです。こうしたスピリッツは日本人が大好きなものだと思いますよ。新しいのは、不特定多数の人たちが書き込みをしている掲示板から作品が生まれたという点だけです。
野口 『電車男』 が話題になった時、「ネットで起きた奇跡」 と新聞などにも取り上げられていましたよね。ネットの中だけで盛り上がって消えていく話が多い中で、『電車男』 は、リアルの世界にまでそのブームが波及した。ネットを知らない人たちにも興味を持たれるような普遍性を持った物語だったのではないかと思いますね。
すでにオファー多数
『電車男』 は映画化できるか?
郡司 『電車男』 は今でもネットで無料で読むことができます。その作品をどうして書籍にしたのかといえば、私は絶対に本にしたほうが読みやすいと考えたからです。ただ、先ほどお話したように、コンテンツを紙の上に再現していく過程では、周りの方々にいろいろ苦労を掛けてしまいましたが。
野口 ネットの世界の人たちは、アスキーアートを紙にする苦労という点に結構反応していたみたいです。私の場合、『電車男』 がネットで話題になっていた時は、あらすじだけ見てみようとサラッと読んで。そのときの印象は、郡司さんがおっしゃるような純愛物語でした。でも、書籍になってじっくり読むと、外野のコメントがすごく面白くて、新たな魅力を発見したという感じでした。改めて紙の魅力も再確認することができましたね。
有重 ネット上でコンテンツを全部読んでいると時間がかかりますから、書籍の形にしてもらえると、一般の人にも分かりやすくなりますね。
野口 でも、おそらく一番楽しんだのは、実際にリアルタイムで電車男の恋を見守っていた人たちでしょうね。
有重 本を読めばあっという間の出来事ですが、リアルタイムで見守っていた人たちは、相当な時間を費やしているわけですよね。
郡司 ええ、約2カ月間の出来事です。ですから、最後にアスキーアートの花火が乱発されるのも分かる気がします。でも、この作品の映像化は難しそうですよね。
有重 そうですね。通常の小説よりも映像にしたときの振り幅が広いので、すごく苦労すると思います。
郡司 でも、すでに映画化の話はたくさん来ているんです。ただ頭の中にある映像のイメージは、おそらく皆さん、それぞれ違うんだろうな、とは思いますが。
有重 これだけすばらしい作品なのですから、映像化も新しい演出方法にチャレンジしないと、魅力が伝わりませんよね。
映像化は
作家にとっての大チャンス
司会 書籍は映画化されることで、これまでの読者層とは違った新しい層に支持を得て、ベストセラー化することもあると思います。逆にもともとベストセラーの書籍を映画化することで、大ヒット作品が生み出されることもある。それぞれのお立場から映画と書籍の関係をどのようにご覧になっていますか。
有重 映画業界の人間の立場から言えば、ベストセラー作品は宣伝しなくても、すでにみんな知っているわけですから、それだけヒットする可能性は高い。原作がベストセラーかどうかは映画化する上での重要な判断基準になると思います。ただ、その作品が映像化できるものなのか、またそれを観客が見たいと思っているのか、などを考えるとすべてのベストセラーが映画化できるわけではありません。
基本的に本と映画は違うものです。当然、できあがった映画のイメージが原作の本のイメージと異なる場合もあります。ですから書籍を映画化する際には、出版社の方々にも、その点を理解していただくようにしています。
郡司 今年の7月にフジテレビで 『東京湾景』 というドラマが放送されました。このドラマは私が編集を担当した吉田修一さんの同名小説が原作です。実際にドラマを見てみると、『東京湾景』 というタイトル以外、ほとんど原作の要素は残っていませんでした。ただ、確かにドラマの影響で本は売れましたね。映像化は作家さんにとって、とても大きなチャンスです。今回も、ドラマの原作になることで、吉田さんの名前がこれまでとは違う層に広がった。
しかし、おっしゃるように映像化された作品は原作とは全く別の創造物。その出来については、基本的に口を出すべきではないと考えています。作家さんにも 「映像化の契約をした時点から、この作品はご自身のものではない」 ということをよく理解していただかないと、トラブルのもとになると思います。ある程度、作家さんにも割り切って考えて頂く必要があるのではないでしょうか。
有重 そうですね。
郡司 『電車男』 に関して、映画化のお話をたくさん頂いていますが、なかなか手放しに喜ぶことができません。あのサイトに参加していた人たちが、作家ではないという苦悩があるからです。彼らにとって本は単なる副産物、売れなくてもかまわないんです。むしろ自分たちのイメージや価値観にこだわりがあると思うので、増刷すること自体、彼らにとっては負担かもしれない。「売れる」 ことが著者のメリットにならないというのは、編集者として難しいところです。
よく 「 『電車男』 ってどんな人?」 と取材を受けますが、私はメディアに出たくないという彼のことを守らなければならない。彼らがいわゆる 「普通の作家」 だったらどれだけ嬉しいだろうと思います(笑)。
連載終了前から問い合わせ
映画界が求める、有望な原作
有重 今回、角川映画で手掛けた 『インストール』 も、原作とは違う雰囲気になっていると思います。綿矢さんの作品は文体がおもしろい。そうした意味で言えば、文体は映像にしようがないんですよ。そこでアイデアを持っていた片岡Kさんに演出をお願いし、連続ドラマなどをメインに書いている大森美香さんに脚本をお願いしました。是非、皆さんに見て頂いて原作と映画を比べて、ご意見を頂きたいですね(笑)。
司会 ベストセラーの映画化には、何十万の愛読者を敵にまわすかもしれないというリスクもあると思いますが。
有重 そうなった作品もたくさんありますね。
郡司 でも、敵になるには、まず見ないと(笑)。
有重 そうだといいのですが(笑)。今は携帯メールも浸透していますから、口コミで映画の良し悪しや内容がパッと広がってしまう。昔は良い映画でも、口コミで広がる前に公開が終了してしまって、ヒットになり損ねることもありました。最近は恐ろしいほど、ビビッドに反応が返ってきます。ただ口コミで 「面白くない」 という評判が流れても、不思議なものでどこが面白くないのかを見に来るんです。一番怖いのは反応がないことですよ。
郡司 人って、たとえマイナスでも、あまりに過激な反応だと 「噂は本当なの?」 と検証したくなりますからね。
有重 相乗効果という意味では、良い映画になって本も売れれば一番うれしい。でも、批評、批判も含めていろいろと言われる映画の方が、広がりがありますね。
郡司 私もそう思います。万人が良いと思うものはありませんから。
有重 ベストセラー本と映画の関係としては、本が売れて前宣伝ができている状況を土台に映画を公開する。今度は逆に映画化による効果で、更なる書籍の販売を狙う。よく使うのは、映画化のタイミングで文庫を出す手法です。
しかし、以前手掛けた 『着信アリ』 のケースでは、秋元康さんが考えた企画が面白かったので、「映画にしましょう、一緒に脚本を作りましょう、原作も書きましょう」 と一気に話が進み、書籍の発売と映画の公開を同時に行ないました。このケースだと、宣伝を同時にできるというメリットがありました。映画と本を一緒に作ってしまうのも、面白いと思いますね。
郡司 最近は、本が出る前から、映画化に関する問い合わせが多く来るんです。以前、15回終了予定で 『小説新潮』 に載った小説を本にしようとした時、単行本にする前に、10回目ぐらいで映画化の問い合わせがありました。内容は 「連載はいつ終わりますか」 「原作権はどこが持っていますか」 といったものです。
有重 映画やテレビドラマになりそうな題材というのは、意外と少ない。ですから映画化しやすい作品は各社が狙って、競合になることが多いんです。 『インストール』 の場合も、何十件もオファーをしていましたから。
活用可能性に期待
ネットのパブリシティ効果
司会 次にネットと書籍の関係について、伺いたいと思います。ネットは口コミを誘発するメディアだと思います。そうした点でベストセラーが生まれる際に大きな影響力を持ち始めているのではないかと思いますが。
郡司 『電車男』 がヒットしたのは、インターネットの影響が大きかったと思います。『電車男』 の記事が 『yahoo!』 のトップニュースに載った翌日に、販売部数が一気に跳ね上がったんです。新聞で取り上げられた時もパブリシティ効果で、部数が出ましたが、その倍ぐらい売れたと思います。ネットの力には驚きました。
有重 『インストール』 も発想がインターネットに近いからか、版元の河出書房新社さんによると、普通の本と違ってネット上で売れる部数がとても多いそうです。
野口 マーケティングデータなどを見ますと、20代30代は新聞よりもネットとの接触時間が長いようですし、『電車男』 や 『インストール』 などの作品はターゲット的には確かにネット向きだと思います。
郡司 そうなんです。バーチャルな世界からリアルな売り上げに結びつくんです。
野口 ネットで話題になると、ダイレクトに出版社のサイトやオンライン書店などへのリンクが付くので、書籍の話題は特にリアルな売上げにつながりやすいですね。
司会 『電車男』 はネット以外のメディアでも多く取り上げられていると思いますが。
郡司 ええ。TBSの 『王様のブランチ』 で5分間の特集を組んで紹介して頂いたこともありました。そのときには営業部が調べたところでは、全国で3万部売れたらしいです。やはりテレビの力は大きいですね。でもテレビほどではないにしろ、ネットの影響力も非常に強まっています。出版市場は供給過多ですから、日々多くの本が店頭から姿を消していく。
でもメディアにパブリシティが出ることで、3日でも長く店頭に置いてもらえるかもしれない。映画化されたり、ネット上で話題になったり、常にメディアへ露出していれば、それだけ書店での本の寿命が長くなる可能性がありますよね。
野口 これからのベストセラーの誕生に、ネットは確実に役立つ手段だと思います。一部報道によると、今、ブログを書いている人は30万人とも50万人とも言われています。当社のブログサービスを見ていると利用者数は急激に伸びていて、実感としてはもっとずっと多い気がします。そして、ブログのテーマとして好まれるのがニュースや書評なんです。
ブログでは、リンク先があった方が話題にしやすいので、もっと本に関するサイトを作るとよいのではないでしょうか。それだけでベストセラーが作れるかどうかはわかりませんが、ブログに書評を書くような、決して少なくはない読書好きの人たちに注目されれば、一定の効果は期待できると思いますよ。
2004年12月01日 00:00
トラックバック
こちらへのリンクのない場合トラックバックできません。
このエントリーのトラックバックURL:
http://2ch-library.com/mt/mt-tb.cgi/11